佐藤由美子の音楽療法日記

Journey Into Wholeness

音楽の力

Oshiroibana音楽は人間にとって重要なものであり、音楽には何か不思議な力があるのではないか、と私は昔から思っていました。 しかし、私が実際に音楽の力というものを認識したのは、音楽療法士のインターンとして、ホスピスで働き始めてからの事でした。

インターンとしての最初の仕事として、私はハーブという元ジャズシンガーの患者さんを診ることになりました。認知症の末期の症状に苦しんでいたハーブは、老人ホームに住むホスピスの患者さんでした。 週に一度数ヶ月にわたって、私はハーブを訪問したのです。

ハーブは常に落ち着きのない短気な行動をとり、なかなかコミュニケーションがはかれないという状態でした。しかし、娘の名前も忘れてしまったハーブでも、昔の曲だけは覚えていました。私がギターの伴奏で「What A Wonderful World」などの昔の曲を歌うと、ハーブは笑顔で拍手をするのでした。音楽を通じて、私たちは有意義な時間を過ごす事ができたのです。それ自体奇跡でしたが、この後起った事は、さらに予想外の事でした。

ある日、ハーブは突然歌を歌うと言いました。日ごろから「もう歌は歌えない。」と言っていたハーブ。 低い声でゆっくりとジャズの曲を歌うハーブを見たとき、私は初めて彼の本当の姿を見たのでした。 実際は優しい性格だったハーブは、ジャズシンガー、夫、父親、そして海軍退役軍人でした。音楽によって、彼の本当の姿が見えたような気がしたのです。

二日後、ハーブは突然亡くなりました。それは私自身を含め、ハーブの家族やホスピスのスタッフに衝撃をもたらしました。ハーブの死は悲しいものでしたが、最後の音楽療法のセッション中にハーブが一時でも彼自身であったことが、ハーブの家族にとって、心の安らぎとなったのでした。

音楽によって、私達は言葉を使わずに人々とコミュニケーションを図れます。 ハーブは私に、その音楽の力を教えてくれた患者さんでした。 そして彼は、生や死についてのストーリーを書くインスピレーションを、私に与えてくれたのでした。

***ハーブのストーリーは『ラスト・ソング 人生の最期に聴く音楽』(ポプラ社)で詳しく書きました。

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